その時代、英国は世界の覇者であった。
四分の一の陸塊と七つの大洋を支配する大英帝国、
あらゆる民族の〝白き女王〟ヴィクトリア、
その心の臓、魔都ロンドン。
西暦1887年、6月。
大英帝国は熱狂に溺れていた。
女王在位五十周年式典(ゴールデン・ジュビリー)は
帝国の覇権を喧伝する、英国史上最大の祭典となった。
ロンドンに棲みし英国貴族の吸血鬼、
ホーグーモント男爵レミリア・スカーレットは、
その大英帝国の荘厳なる儀式の最中にあっても、
いやだからこそ、無聊を隠せないでいた。
彼女は知らなかったのだ。
この魔都ロンドンに、異物が紛れ込んでいることを。